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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)155号 判決

理由

一、控訴会社代表取締役小栗為吉が昭和三九年一一月二五日本件(一)の手形(原判決事実摘示一の(一)の手形)を被控訴人に宛て、本件(二)の手形を訴外戸上文恵に宛てそれぞれ振出したこと、本件(二)の手形には被控訴人主張どおりの裏書の記載があること、被控訴人が現に本件各手形を所持していること、控訴会社においては、小栗為吉と小栗為助とがそれぞれ代表取締役に就任以来、両名共同して会社を代表すべきことが定められていたこと、昭和三四年二月二八日右共同代表に関する規定が登記されて以来、右両名の代表取締役重任に伴い、昭和三六年二月二八日、昭和三八年二月二八日にそれぞれ同規定の登記がなされ、右登記は、昭和三九年一二月一七日小栗為吉の代表取締役辞任によつて翌一八日右共同代表の定めが廃止された旨の登記がなされるまで継続したこと、本件各手形の振出人欄には、控訴会社の代表者の表示として代表取締役小栗為吉の記載があるにとどまり、共同代表者の他の一人である代表取締役小栗為助の記載を欠いていることはいずれも当事者間に争がない。

三、被控訴代理人は、小栗為吉は控訴会社の社長と称し、同社を主宰していたものであつて、被控訴人としては本件各手形を受取るに当り控訴会社に共同代表の定めがあることを全く知らなかつたから、商法二六二条の規定により、控訴人は代表取締役小栗為吉の本件各手形の振出行為につき責任を負うべきものと主張する。按ずるに、株式会社の代表取締役について共同代表の定めがあり、かつその旨の登記がなされている場合において、代表取締役の一人が単独で会社の代表機関として行つた法律行為(手形行為を含む)について、商法二六二条の規定の類推適用により会社が表見責任を負うためには、単に法律行為の相手方において、当該代表取締役が単独で代表権を行使し得るものと信じたことをもつて足るものではなく、会社において当該代表取締役が単独で代表権を有するものとして対外的に行動することを許容し、または黙認していた等の事情の存することが必要といわねばならない。ところで、《証拠》によれば、控訴人会社において従業員が小栗為助を会長、小栗為吉を社長と呼称していたことがうかがわれ、また、《証拠》によれば、昭和三七年七月ころ小栗為吉が「寶不動産株式会社代表取締役社長小栗捷宏」なる名刺を自己を表示する名刺として使用していたことを認めることができるが、かかる事実があつたからといつて小栗為吉が社長と称して行動することを控訴会社において容認または黙認していた証左とはなし難い。また、成立に争いない甲第六、七号証(国民新聞)には控訴会社が暑中見舞の広告を掲載し、その社長として小栗為助が表示されていることが認められるけれども、前記《証拠》によれば、右広告は控訴会社の依頼に基づくものではないことが認められるから、この事実もまた小栗為吉が社長として行動することを控訴会社において許容または黙認していたものということはできない。他に、控訴会社において、本件各手形が振出された当時、小栗為吉が単独で控訴会社を代表するものとして行動することを許容ないし黙認していたことを認めるに足る証拠はない。かえつて、《証拠》によれば、小栗為助は控訴会社を設立してその事業を経営するに当り、その息子で若年の小栗為吉を自分の後継者として育成する意図で、前記のような共同代表の定めのもとに同人を代表取締役の一人に就任せしめたものであること、控訴会社の営業はビルの貸室事業が主たるものであつて、他に不動産売買、煙草販売、喫茶店経営等があつたが、小栗為助はその子為吉の器量手腕を低く評価し、その経営能力に危惧の念を懐いていたので、全営業部門を通じ、金融機関との手形取引を含む控訴会社の一切の取引は、小栗為助自身が主宰し、小栗為吉には、ただ喫茶部の経営中経理面を除く部分をつかさどらしめていたに止まり、他の営業部門については一切小栗為助の指示に従わしめていたことが認定される。

してみれば、商法二六二条の類推適用されるべきことを主張する被控訴人の主張は採用できない。

四、よつて、被控訴人の控訴会社に対する請求は失当であるから、これを棄却

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